研究テーマ

栄養素とホルモンによる遺伝子の転写調節

高炭水化物摂食後のラット肝臓でインスリンにより転写が促進される遺伝子として、basic helix-loop-helix 型転写因子である SHARP-2 (DEC1, Stra13, BHLHB2 ともいう)を同定している。培養細胞における SHARP-2 の過剰発現により、血糖上昇に関わる糖新生系酵素であるホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ遺伝子の発現が低下することを明らかにした。したがって、SHARP-2 はインスリン作用を介在する重要な転写因子の一つであると考えている。現在、SHARP-2 の標的遺伝子の検索と SHARP-2 による転写調節機構の解析ならびにインスリンによる SHARP-2 遺伝子の転写促進機構の解明を行っている。

インスリン様活性を有する食品成分のスクリーニングと作用機構の解析

私どもは、SHARP ファミリー遺伝子発現を指標にスクリーニングを行った結果、大豆イソフラボンのゲニステインや緑茶カテキンの(-)-epigallocatechin-3-gallete( EGCG )を、糖尿病予防効果を期待できる生理活性物質として同定している。
現在、SHARP ファミリー遺伝子やインスリンによる血糖低下作用の直接的な因子であるホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ遺伝子の発現抑制を指標に食品成分から広くスクリーニングを行い、抗糖尿病効果を有する生理活性物質を検索している。

発癌による遺伝子の転写調節

Zinc-fingers and homeoboxes (ZHX) ファミリータンパク質として、ヒト ZHX1, ZHX2 および ZHX3 の 3 つの転写抑制因子を世界で初めて同定した。これらは、すべて互いにホモ・ヘテロ二量体を形成すること、細胞増殖関連遺伝子の転写を制御する Nuclear factor-Y の A サブユニットと相互作用し、NF-Y 依存的な転写を抑制することを明らかにしている。細胞増殖と ZHX ファミリータンパク質の発現との関係や ZHX ファミリータンパク質による遺伝子の転写抑制機構の解析について研究を行っている。

ヒト II 型糖尿病原因候補遺伝子の探索(共同研究)

愛媛大学医学部の大澤春彦教授のグループとの共同研究により、ヒトレジスチン遺伝子のプロモーター領域の単一塩基多型が日本人の II 型糖尿病の原因遺伝子の一つであることを突き止めた。この塩基を有するヒトでは、転写因子 Sp1/Sp3 が結合することにより、正常なヒトに比べてレジスチン遺伝子の発現量が高くなっていることを明らかにしている。現在も、日本人の II 型糖尿病の原因遺伝子の探索を行っている。